槇文彦さんが亡くなりました。ポポロを建ててくださった建築家です。心の底から名建築と思います。しかも風土や地理や町にとても合っているのです。
何しろ三原は瀬戸内の町。瀬戸内海という内海に面しております。そして槇さんはというと東京の人ですが、戦後早くにアメリカに留学し、かの国にとどまって仕事を始め、その合間の1950年代終わりにはヨーロッパを長く旅して、中近東にも足を伸ばしました。その旅が槇さんの美意識やスタイルにのちのまで深い影響を与えたのです。具体的には地中海沿岸です。陽の光が燦々と降り注ぐ内海の町や人や家の姿です。ギリシアやシリアやイスラエルのありさまです。
そこには、パリやロンドンやベルリンやニューヨークのように、威圧的大建築が聳え立っているわけではありません。海岸や砂漠や岩山の微妙な地形を活かしながら、あたかも自然に寄り添うように、低層の中小の建物が軒を連ねて群をなし、村や町をかたちづくっているのです。
さらに言うと、村や町の中には、皆が集える場所がふんだんに用意されている。そういう、言わば地中海的光景から形成されていった槇さんの世界が、瀬戸内の三原の、皆が集うための公共ホールに還元されているわけです。だってポポロは、威圧的でなくて、中は広々として、窓も大きくて、中庭も外庭もあって、陽の光は燦々と降り注ぎ、とても明るいでしょう。これはもう槇さんの夢見た地中海的ユートピア建築の瀬戸内海的実現に他なりません。
ポポロある限り、槇さんの夢は生き続けるのです。
三原市芸術文化センター「ポポロ」館長 片山杜秀
プロフィール
政治思想史研究者/批評家。慶應義塾大学法学部教授。1990年代には、フリーのコラムニスト、日本のクラシック音楽作曲家を主に扱う音楽批評家として活動。日本近代音楽の研究により京都大学人文科学研究所人文協会賞を受ける。『音盤考現学』と『音盤博物誌』(共にアルテスパブリッシング)で吉田秀和賞とサントリー学芸賞を、『未完のファシズム』(新潮社)で司馬遼太郎賞を受ける。大宅壮一ノンフィクション賞やサントリー音楽賞の審査員を歴任。現在、NHKFMで『クラシックの迷宮』のパーソナリティ、吉田秀和賞と尾高賞と佐治敬三賞の審査員を務める。
このたび、三原市の文化芸術の振興・発展を目的として、一般財団法人みはら文化芸術財団が設立されました。2020年4月から三原市芸術文化センターを管理運営することに加え、様々な活動により地域の人々をつなぎ、生活の中に文化芸術を浸透させることを目指しています。
三原市に誕生したこの財団が展開する『地の利を活かした特長的な活動』が、瀬戸内の広域に共鳴し、人々が喜んで住み続けたい「まち」づくりへと発展するよう、取り組んでまいります。
©Tohru Yuasa
1928年 | 東京都生まれ |
1952年 | 東京大学工学部建築学科卒業 |
1953年 | クランブルック美術学院修士課程修了 |
1954年 | ハーバード大学修士課程修了 ワシントン大学、ハーバード大学準教授を歴任 |
1965年 | 槇総合計画事務所設立 |
1979〜 89年 |
東京大学工学部教授 |
☆施設見学については、事前にポポロ事務所へお問い合わせください。
三原市芸術文化センター ポポロ
〒723-0051 広島県三原市宮浦二丁目1番1号
TEL:0848-81-0886